巧言令色鮮し仁

楢諦

むかし、斉の田成子は海べに旅をしてそれを楽しみ、諸大夫に号令して、「都に帰ろうという者は死刑にする」と申しわたした。忠臣の顔涿聚(がんたくしゅう)は「殿は海べで遊んで楽しんでおられるが、留守中に斉の国をうかがう臣下があらわれたらどうします。殿は楽しもうとされても、とても果たされませんぞ」と諫めた。田成子は「わしは命令をくだして、『都に帰ろうという者は死刑にする』と申しわたした。今そなたはわしの命令にそむいたぞ」というと、戈を引きよせて打ちかかろうとした。顔涿聚(がんたくしゅう)は答えた、「むかし、夏の暴君の桀は忠臣の関竜逢を殺し、殷の暴君の紂は王子の比干を殺しました。今や殿がわたくしめの命を奪って三人めにしようとされても、かまいません。わたくしめがものを言うのは国のためで、わが身のためではありませんから」。頸をさしのべながら前に出て、「さあ、お打ちください」といった。田成子はそこで戈を捨てると、車を急がせて都へと帰った。帰りついて三日たつと、都の中で田成子を都に入れまいとする陰謀のあったことが聞こえてきた。


韓 非. 韓非子 第一冊 (岩波文庫) (p.196). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.


民主主義の欠陥は、つまらない人間が、代表を選ぶ、ということにある。選ぶ側が、しっかりしていないといけないのである。民主主義は、しんどいのである。まんべんなく、様々なジャンルの本を読んで、走ったり、美術館に行ったり、また、好き嫌いなく、様々な人と話をして、世間も知っていなければならない。好き嫌いなく、ありとあらゆることに通じていなければならない。もちろん、それは現実的ではないので、とりあえず、嫌なヤツ、特に選びたくないヤツ、性格の悪いヤツを、選んでおけばいいと思う。正直な人間、ウソをつけない人間、無私の人、お人好しというのは、そういうものだからである。


そういう時、チェーザレ・ボルジアみたいな、最上の悪人は、それを真っ二つにして、晒し者にする。そのようにして、英雄になるのである。