童話:マッチポンプ

彼は見た目は控えめで、どこか頼りないようにすら見えました。しかし、その話術と頭の回転は抜群で、村中の誰もが彼の話を一度は聞いたことがあるほどでした。
彼の仕事は、「成功の秘密」を教えること。けれども、彼が本当に得意だったのは、人々の中に不満を創造することでした。
平穏な村と彼の狙い
その村では、人々はそれなりに幸せに暮らしていました。少ない収入でも工夫してやりくりし、隣人との助け合いが当たり前でした。けれども、彼が村に来ると、空気が変わり始めました。
彼は静かに、しかし巧妙にこう言うのです。
「君、気づいているかい?隣の村では、この年齢の人がもっと稼いでいるらしいよ。」
「あなたの暮らしも悪くないが、もっと豊かになる方法があるのに、それを知らないなんて惜しいね。」
人々は最初は気に留めませんでした。しかし、彼の言葉はじわじわと心の中に入り込みました。
「本当は、もっと良い生活ができるんじゃないか?」
「私は損をしているのではないか?」
こうして、これまで気にしていなかったことに不満を抱くようになったのです。
不満の芽を育てる
彼は、不満の芽を育てることに余念がありませんでした。
彼は村人たちに、隣の村の成功者の話を吹き込みます。しかし、それがどこまで本当かは誰も知りません。彼の話を聞いた村人たちは次第に焦りを覚えました。
「どうして自分だけがこんな生活なんだろう?」
「隣の村には成功の秘訣があるのかもしれない…!」
そのタイミングを見計らい、彼はこう言いました。
「私の情報商材には、その秘訣が書いてある。これさえあれば、君たちももっと幸せになれる。」
不満の果て
村人たちは彼にお金を払い、その「秘訣」を買い求めました。しかし、その中身は、表面上は理にかなっているようで、実際には実践が困難な内容ばかりでした。
- 毎日早朝に起きて、日の出前にすべての準備を整えること。
- 他人の成功を常に観察し、それを上回る成果を出すこと。
- 自分が一番得意でない分野にも挑み、結果を出し続けること。
村人たちは最初こそ意気込んで取り組みましたが、次第に「こんなことは自分には無理だ」と感じるようになり、むしろ挫折感と不満が膨れ上がるばかりでした。それでも、払ったお金を取り戻したい一心で続けざるを得ない者も多く、さらに生活が苦しくなっていきました。
教訓
賢い人の場合は、他の人が他の物を持っているからと言って、自分の持っている物が楽しいものでなくなるようなことはない。
バートランド・ラッセル
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