物語: 舞台の中での自分の役割

楢諦

ある町に、大学を卒業したばかりの若者、翔太がいました。翔太は、将来の進路に大きな悩みを抱えていました。周りの友人たちは就職先を決め、順調に進んでいるように見える中で、翔太はどんな仕事を選んだらよいのか分からず、立ち止まっていたのです。


翔太は大手企業からの内定ももらっていたのですが、その仕事が自分に本当に合っているのか、心の中で確信が持てませんでした。彼は、次第に「この仕事が本当に自分に適職なのだろうか?」という疑問が頭を離れなくなり、毎日を過ごすことに不安を感じていました。


そんなある日、翔太は町の公園でふと、田中さんに出会いました。田中さんは近所で長年働いてきた大工で、翔太を子どもの頃から見守ってきた人物でした。翔太はしばらく田中さんと立ち話をしているうちに、思い切って自分の悩みを打ち明けました。


「田中さん、僕、仕事を決めるのがすごく怖いんです。就職する場所は決まっているんですが、それが本当に自分に合っているのか分からなくて、心からやりたいことが見つからないんです。」


田中さんはしばらく黙って聞いてから、にこりと笑いながら言いました。


「翔太、君が迷っているのは当たり前だよ。でも、覚えておいてほしいことが一つある。社会というのは、まるで大きな舞台のようなものだ。


翔太は驚いて田中さんを見ました。「舞台ってどういうことですか?」


田中さんは続けました。「演劇をやるとき、最初に役を選ぶだろう?その時に、自分が選んだ役が、そのまま、君の適職なんだよ。主役、脇役、裏方、いろんな役があるよね。それぞれの役には重要な役割があって、どの役も欠けてはならないんだ。」


翔太は少し考え込みました。「でも、僕はどんな役が自分に合っているのか、まだ分からないんです。もしかしたら、僕には舞台に立つのにふさわしくないかもしれない。」


田中さんは頷きました。「その気持ちはよく分かる。でもね、どんな役を演じるかは、自分の内面に耳を傾けることから始めなければならない。君がどんな役をやりたいのか、自分の強みや情熱を理解することが大事だ。君が心から楽しめる役を演じることができれば、舞台の上で輝けるはずだよ。」


翔太はその言葉に少し心が軽くなったように感じました。「じゃあ、どうすれば自分の役が見つかるんですか?」


田中さんは優しく微笑んで言いました。「その役は、君がこれまで経験してきたこと、君の得意なこと、そして君が心から大切にしていることに基づいて決まるんだ。時には試行錯誤が必要だけど、役を見つけるためには勇気を持って前に進むことが大切だよ。」


その言葉に背中を押された翔太は、再び考え始めました。自分の役割が何かを見つけるために、まずは自分を理解し、どんな仕事が自分に最もフィットするのかを探してみることが必要だと感じました。


数ヶ月後、翔太は自分が選んだ仕事に対して確信を持ち、前向きな気持ちで取り組むことができるようになりました。それは、単に給与や地位に引かれて選んだ仕事ではなく、自分がどんな役割を演じたいのかを意識して選んだものだったからです。翔太は、舞台の上で自分の役をしっかりと演じていくことを決意しました。


そして、翔太が自分の役を果たしていく姿を見守っていた田中さんは、満足げに微笑みながら、こう思ったのでした。


「社会という舞台では、どんな役を選んでも、その役を全うすることが大切なんだ。翔太はそのことに気づいたんだろう。」




私見


劇をやりますという時に、迷わず裏方を選ぶタイプの人は、それが、その人の本性だと思います。実社会においても、そういう役割じゃないですかね。